【28日】
ママに怒られる。
「どうして扉を閉めないの」


たった、それだけ。
なのに、ママに怒られたとき、いつもそうなるように、
私は非力な女の子に戻った。
普通の人が普通にできることが何もできなくて
手に取る物すべてをぽろぽろと指の隙間から落してしまう
非力でちいさな女の子。


【29日】
「君には夢がない」


私はいつになく乱暴なペシミスティックな受け応えをしていた。
私の核を震えさせるには十分な言葉だった。


鴨川へ、ひとり部屋で泣くのはやるせなかったから。


夢、みたいな立派なものは、未だに抱けないでいるけれど、
生まれたその瞬間から願っていたのではないかと思うほど、
私をいつも強く突き動かす「想い」なら、ある。
私は私なりに、今までだって、夢を夢見てきたし、
「想い」との付き合い方も、やっと、少しは、掴めてきた。


そんな私のペースを思い出して、大丈夫だと、言い聞かせる。


センチメンタルな思い出の一つを置いて、帰った。
その思い出は、そういえば、私を茶道から遠ざけさせた原因の一つだった。


【30日】
その門の前に立った瞬間、あぁ、捉まってしまったかも知れない、と思う。


色とりどりの小さな花が、咲き乱れるでも、閑散と、でもなく、
何の邪魔もしないからといって、存在感がない訳でもなく、
野花のように咲いていた。
門の上にはたっぷりとした藁ぶき屋根。


「ぜひ来てほしいんだ」
3週間ほど前のこと。
それほど力強く誘われたことが、かつてあっただろうか。
まだ時期じゃない気がするとかぶつぶつ言う私に
念を押すようにメールまでくれていたから
意を決したのだった。


"Oh, Yuko!!"


友人が言っていた通り、サンタクロースのようなやさしい髭をたくわえた
ジャックが迎えいれてくれた。


大きな囲炉裏から灰をせっせと運び出す生徒さん。
グミの実がなったから、と届けてくれる子供たち。


ぬくもりのある民芸風の家具に
きっとひとつひとつに素敵な逸話をもっていそうな道具たち。


ジャックと私は出会ってまもなく
移り変わる時について、光と影について、2人きりで語り合った。



気持ちよく晴れて、心地よい風が吹いた13時。
部屋をやわらかな影がつつみはじめた16時。
何かの合図のように小さく雷が鳴った18時。
憂鬱さも冷たさも持たない雨が降りだした19時。


私たちは言葉を、思考を、茶碗を、交換し続けた。


ここには私の学びたいことの全てがあって、
今の私なら、それに向かい合える気がしている。