「犯人の供述は、全く、理解できないものでした」
もっともらしい、こわばった顔で語るニュースキャスター。


善良であるがゆえに、彼は理解できないのだろうか。
それとも、理解したくないがゆえに、思考を停止させたのだろうか。


犯人の供述、
「誰でもいいから、人を殺したかった」


「理解できる」
なんて言ったら
世間は私を狂気と呼ぶだろうか。


たまたま、他人を殺したい、と思ったことはないけれど、
手に余る、悲しみや不安や悔しさが、刃となって、
その矛先に困ったことは、ある。


さみしい、を埋めたくて、
美しいものなんて全然口に合わなくて、
わざと醜いものでいっぱいにしたことも、ある。


現実に向き合うのがこわくて、
崩壊を夢見たことも、ある。


善良なる一般市民はみんな、強くて、他を慮って、
狂気とは別世界に住んでいるんだろうか。


ちがうと思う。


理解できなくて尤もだ、なんてのが
正論になってしまうほど恐ろしいことはない。


狂気は孤独な持ち物じゃないよ。
共有しようよ。


なんて、やっぱり世間の目がこわくて、言えないや。


もし私がニュースキャスターだったら、
彼と同じように、一線を引いているふりをするのかな。